医学部6年生の学生さんが、将来美容外科の道に進みたいということで、「美容医療のキャリアパス」について相談にいらっしゃいました。
実際美容医療に携わる医師は、形成外科または皮膚科出身の医師が多いと思いますが、最近は研修医が終わったばかりの若い医師や、内科・整形外科・産婦人科など他科医師の参入も増加中と聞きます。
要するに、「医師免許さえ取得していれば、誰でも可」ということです。
医師国家試験に合格し、医師免許を取得すれば、何科にでも進めるし、何科を標榜しても構いません。
専門医取得も義務ではありません。医学博士も然り。
専門医は各学会が基準を定め、それをクリアした医師に与えられる称号です。
形成外科専門医は医師免許取得後6年を要します。
医学博士は大学院に進んで取得する人もいれば、臨床に従事しながら取得する人もいますが、こちらも2~3年はかかるようです。何かを研究するのです。
医師としての専門性を高めるには、とても長~い時間がかかります。
美容外科医の王道は、まず大学形成外科医局に所属して専門医を取得(と言われていました)
大学病院では一般的な美容外科手術症例が少ないので、民間の美容クリニックで腕を磨く必要があります。
大手チェーンクリニックは豊富な症例数が魅力でしょう。高い報酬を得られると聞きますが、そのためにはもちろん人一倍働き、症例をこなし、稼がなければなりません。儲けることが目的になることもあるでしょう。美容医療は結果が目に見えますので、患者さんからの評価もシビアです。
小規模な個人美容クリニックは、院長の専門性が強調されますので、幅広く沢山の症例を経験するのは難しいかもしれません。しかし、患者さん一人ひとりに対する責任が院長に重くのしかかりますので、より丁寧な診療が求められます。
大手クリックと個人クリニックを比較しましたが、それぞれ良い部分も足りない部分もあります。
両方経験できるといいのですが、どの先生に教わるか?が、その後の職業人生を左右する最も大切なことだと私は考えています。
技術の高さはもちろんですが、それ以前の人間性、すなわち「医師としての在り方」を心得ているか?です。
患者さんの気持ちに寄り添い、何を求めているかを知ろうとする姿勢。
医療サイドの都合や利益ではなく、「患者さまに利益をもたらす最適な治療を提供します」←これ、当院の行動目標の一つです。開院した頃から変わっていません
私が美容医療の研修を受けた北里研究所病院では、本当に丁寧な診療を行っていました。
まだ若かった私は、「一人にかける時間が長すぎる。もっとたくさん症例を診たい」と焦ったものですが、今となってはその重要性がしみじみ理解できます。
今でも当院に通って下さる方々は、「先生にちゃんと診てもらいたい」という思いを大切にしています。
私は医師4年目に妊娠・出産をしても美容外科王道を続けていましたが、6年目の終わりに妊娠し、子供二人になったことで、美容外科王道は諦めました。王道を歩むには、男性医師と肩を並べて当直、深夜業務をこなし、出向命令があれば従わなければなりません。さらに外科手術は術後出血のリスクが高く、夜中でも呼び出されます。手術結果の満足度に対しても要求レベルは高く、その責任を負いつつ、子育ての責任までやってのける自信が持てませんでした。(それをやってこなせる女医さんをスーパーウーマンと言いますが、私はただのウーマンでした。)勤務医の頃は手術終了時刻が深夜0時を回ることも度々で、今考えると信じられない働き方をしていたものです。でも、好きでやっていたし、修行していることがまったく苦ではなく、かえって夢しかありませんでした
大学で専門医を取得する道は諦め、北里研究所病院といくつかの美容クリニックでアルバイトをしながら、美容皮膚科医としての技術習得に専念し、開業することを目標に据えました。32歳の決断でした。
私(女性)が出産・子育てという大きなイベントに直面していても、夫(男性)は着々と留学・専門医・博士号という王道を歩み続けます。同じ医師なのにずるいなぁ、と悶々としたものです。夫の出世を手放しで喜べず、「あなたも子育て手伝いなさいよ」とキリキリしていたものです。だからと言って、子育てを誰かに丸投げしてまで美容外科の仕事に専念するほどのプロフェッショナル意識があったわけでもありません。何とか両立するしかありませんでした。
しかし、学生さんから「もし最初からやり直せるとしたら、先生はどの道を選びますか?」と質問され、ハッとしました。今まで歩んできた道で良かったのではないかと。
大学で専門医を取得し、バリバリの美容外科医として活躍していた方が良かったのかどうかなんて分かりません。
小規模ながらも個人クリニックを開院し、私の医療を必要として下さる患者さんに支えられ、丁寧な美容医療を行う毎日に、何の不満があることでしょうか。
学生さんの相談に乗ることで、逆に質問され、自分自身のキャリアの棚卸が出来ました
「お金儲けのために働くチャラチャラした医者になりたくない」
と断言した学生さん。将来有望です