「行き過ぎた健康の先は、どうしたってグロテスクになる」
日経新聞夕刊の文化面、ドキッとするような冒頭で始まる文章。
『天の敵』と言う舞台。
作・演出は前川知大さん。
2003年に結成した劇団「イキウメ」による演劇を観ました。
内容を要約しますと、1895年生まれの医師が、戦争による飢えを何とか解決しようと食事療法を考える中、行き着いたところが「飲血」人の血を飲むことでした。
50代半ばから飲血を始めると、どんどんカラダが若返ります。
肌ツヤや身体能力が劇的に若返ったものの、紫外線に極度に弱く、日中外に出ることができません。
もしろん、血液以外のモノを口にすることもできません。
やがて働いていた病院勤務を続けられなくなり、今までの自分を捨て、偽造した身分証明書で身を隠すように過ごすことになります。
彼の妻にも飲血をさせたところ、同様に若返りますが、生殖機能だけは戻らず二人の間には子供がいません。
日中外に出られないため、暇を持て余した妻は、夜遊びで街に繰り出し、お酒を飲んだり男性と遊ぶようになります。
そしてついに、禁断の食事を口にしてしまったところ、嘔吐が止まらず、急激に老化して亡くなってしまいます。
最期の「お肉やお魚や白いご飯の美味しかったこと!!」というようなセリフが強烈に印象的でした。
ああ、食事というものは、人生の喜びの大きな割合を占めているんだなと。
それを我慢して、血を飲みながら隠れるような生活をしながら、惚れ惚れするような若々しさを維持することに、何の意味があるんだろうか?と問いかけているようでした。
ちょっとグロテスクな内容になって申し訳ないのですが、私がこのようなテーマに興味がそそられるのは、自分自身が肌断食と湯シャンを実践し、それが本当に快適だと心の底から思っているからです。しかしそれは社会のマイノリティーであり、ある意味「変人」であることも自覚しています。
20代の終わりから少しずつ化粧品を減らす生活を試み、どこまで減らせるのか?を追求することが私のライフワークになりました。3~4年でファンデーションを卒業、アイメークは10年以上かかりました。湯シャンに取り組んだのは30代終わり、5年越しで完全にシャンプーを止めることが出来ました。まさに人体実験です。
化粧品を当たり前に使っていた生活習慣を変えるには、結構時間がかかることを知りました。
生理的に細胞が整うまでの時間と、心理的に慣れるまでの時間です。これは個人差が大きいのですが、年単位で変わってくるものです。3か月で変わる!というのは嘘だと思っています。
現代人は効率の良さとかコスパとか、とにかく時短を求める傾向がありませんか?
数年前にスローライフという言葉が流行りましたが、どこか行ってしまいましたね
何か物事を達成したり習得するには、年単位の時間がかかるというのが真理だと、私は思っています。
程度の差はありますが、素肌をキレイに整えることは「できます」
私が提供するのは「素肌の健康」であって、メークで映える美しさではありません。
しかし、それは簡単ではありません。
時間と続けられる根気が必要です。
『天の敵』を作った前川さんご自身、「マクロビオティック」に取り組んでいたそうですが、だんだんとライフスタイルそのものを変えないといけないことに気付いたと書かれています。家族からもうやめてくれ、と言われ、健康になりたいと言うクリーンな欲望から、排他的、攻撃的な自分が生まれていくのを感じていた、とあります。
完璧な健康主義者って、ちょっと近寄りがたいということでしょうか。
え?もしかして、肌断食と湯シャンをしている私も、そのように思われている??
そんなことありませんよ
私はお酒も飲むし、好き嫌いなく何でも食べられます
結構テキトーに暮らしています。
劇中の「お肉やお魚や白いご飯の美味しかったこと!!」というセリフをメークに置き換えれば、
「肌色が明るくなり、目鼻立ちがハッキリしてメークってミラクルいい香りに包まれて幸せ!!」なのでしょうか。
心底お化粧が大好きな人に、肌断食や湯シャンは苦痛でしょう。
私はお化粧品を使うのは個人の自由だと考えているので、使うこと自体を否定しません。
お化粧をやめたいけれど、どうすれば上手く止められるの?という質問には、とことん応えます
肌断食&湯シャンを実行している女医による美容皮膚科なんて、ほとんどないと思いますからね
肌や髪の健康について間違えないで欲しいことは、化粧品をやめることが目的になってしまうと、清潔観念を忘れてしまいかねないということです。健康な肌や髪を手に入れるために不潔になっているという、本末転倒なことが起きています。
健康な素肌にするために、過剰な化粧品を減らします。
化粧水を使って問題なければ使えばいい。
ファンデーションを塗って自信が付くのであれば塗ればいい。
石けんでスッキリするのであれば洗えばいい。
私は肌状態を観察して、良くないことがあればお伝えするだけです。
万人に共通で良いとか悪いスキンケアはありません。
1人ひとりが快適に感じるスキンケアをすればいいのです。
肌断食と湯シャンがゴールではないのです。
スキンケアは奥深いです。
私の目指す素肌美はグロテスクになっていないか?を再確認させたれた演劇でした。